名古屋高等裁判所金沢支部 昭和33年(う)178号 判決 1959年3月12日
被告人 石田賀太郎
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
第一点一について。
所論は先づ本件公訴事実第一の犯罪が被告人と佐藤仁助の両名共謀にかゝる犯行であることを訴因とするに拘わらず原判決は何等の理由を示さずに、右は被告人の単独犯行であると判示したことは違法である旨主張する。記録によれば本件公訴事実第一は被告人と佐藤仁助との両名の共謀による犯行とされているところ、原判決が之につき訴因変更の手続を経ることなく原判決挙示の証拠に基いて之を被告人の単独犯行と認める旨説示していることが明らかである。そこで先づ共謀による共同正犯としての公訴事実を単独犯と認定する場合に、訴因変更手続を要するか否かを考察するに、(一)本件起訴状の公訴事実第一には、被告人は佐藤仁助と共謀の上、具体的に本件私文書偽造行使詐欺をなした旨記載されているのであつて、右共謀の点を除外すれば被告人の単独正犯とするに足る事実が記載されているものであり、(二)被告人側の防禦の立場より観察するも、被告人は「犯意の有無はさておき公訴にいわゆる実行を担当したのは自己であつて共犯者とされている佐藤仁助ではなく同人は背後にあつて被告人を利用した者である」旨主張していることは原審第一回及び第四回公判調書中の被告人の各供述記載及び弁護人提出にかかる本件控訴趣意書の記載に照して明らかであり、(三)起訴状と原判決とを対比するに両者の罪名及び罰条は共に有印私文書偽造同行使詐欺刑法第百五十九条第一項第百六十一条第一項第二百四十六条第一項を挙示しており、其の罪名罰条に何等の変更がなく原判決は起訴状において追及せられている被告人の刑事責任以外のものを判断したものでないことが明らかである。以上の事実によれば被告人と佐藤仁助との共謀にかゝる犯罪であるとの公訴事実を原判決のように被告人の単独犯行と認定しても何等公訴事実の同一性を害しないばかりでなく、被告人の防禦に不意打を加えて之に実質的な不利益を与えたものでないから原判決が訴因を変更することなく右共謀共犯の公訴事実を単独犯行と認定したことは何等違法でない。而して此のような原審の認定は原判決挙示の証拠に基き本件公訴事実中共謀の点を除外して罪となるべき事実を認定したに止まり、此のように共謀の点を除外して犯罪事実を認定することは、被告人にとつては犯行の態様に差異を来すにすぎず刑事訴訟法第三百三十五条第二項にいわゆる「法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由」ではないから、原判決において此の点につき特段の理由を附しなかつたとしても何等違法ではない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判官 山田義盛 沢田哲夫 辻三雄)